ビジネス思考

考える力の考察「汎化能力」

考える力の考察 第2回は「汎化能力」について考察します。
まずは一般的な「汎化」の説明から。

考える力の考察 記事一覧
第1回「考える力の重要性」
第2回「汎化能力」(本記事)
第3回「想像力」
第4回「メタ認知能力」
第5回「論理的思考能力」①定義
第6回「論理的思考能力」②妥当な根拠

「汎化」とは?

コンピューター技術、心理学、人工知能の機械学習など、学術的な用語としては分野により定義が異なり、意味も変わってくるのですが、ここでは最も一般的な意味として捉えます。

汎化とは「様々な事柄に対して共通点を見つけ、より広い概念として捉えなおすこと」です。英単語だと「generalization」で、一般化と呼んだ方がイメージ湧きやすいかもしれませんね。

汎化とは、様々な異なる対象に共通する性質や、共通して適用できる法則などを見出すこと。一般化、普遍化ともいう。対義語は特化(specialization)あるいは特殊化。
引用)汎化とは|generalization – 意味/定義 : IT用語辞典

具体例で説明するのが一番ですね。下の図をご覧ください。

Figure.1  乗り物の汎化の例

タクシーやバスをまとめて「自動車」、フェリーやクルーザーをまとめて「船」など、より広い範囲でまとめていますよね。これが汎化です。さらには、もう一段階汎化すると「乗り物」になっています。さて、ここから「新幹線」と「徒歩」が追加の要素として増えたとすると、どうなるでしょうか。一例としては以下のように整理できるでしょう。

Figure.2  新要素の追加と再整理

乗り物の配下に「電車」というカテゴリーが増え、そこに新幹線が属しています。そして、徒歩は乗り物ではないため、既存の最上位であった「乗り物」の配下には入れられません。そこで「移動手段」というもう一つ上の概念を導入して、それに対応しています。

このように、新しい要素が追加されたときに、それが既存の分類に当てはまるのか、それとも新しい分類を追加し体系を整理しなおす必要があるのか、そのような類似性を評価することが汎化能力では重要になってきます。

汎化能力は、応用力の源泉である

さて、上記を踏まえ、ビジネス思考における「汎化能力」を定義します。
汎化能力とは、「新しい状況に遭遇しても、既知の事柄との共通点を見つけ、既存のノウハウを活用して対応できる能力」と言えます。

図示すると以下のようになります。
ビジネスシーンでは、「汎化・特化」を「抽象化・具体化」と表現することも良くありますね。個別具体的なノウハウを汎化して、汎用的な仕事術に昇華し、それを新たな仕事へ適用する。このような「ノウハウの横展開」が非常に有効です。

Figure.3  経験・ノウハウの汎化と、新しい状況への適用

人工知能などの機械学習の分野では、学習用に与えられたテストデータで成績が良いだけでは駄目で、新規の未知のデータに対しても良い成績を出せることを汎化能力と呼びます。汎化能力はそんなにメジャーな言葉ではないと思いますが、何か知っている概念に似ていませんか?

そう、汎化能力は「応用力」の源泉にある能力だと考えられます。

ビジネスシーンに限らず、様々な生活シーンにおいても日々環境は変化しており、未知の状況に遭遇することが必ずあります。しかし、一見異なる状況や条件に思えても、何らか以前の状況との共通点を見出すことができれば、今まで培ってきたノウハウが必ず役立てられるはずです。今まで培ってきた経験や知識を新しい環境と見比べ、うまく使えそうな手持ち材料を活用することで、未知の状況に対しても “丸腰” で挑まずに一歩抜きんでたスタートを切ることができるのです。

では、汎化能力を向上するには、どのような要素が重要になるのでしょうか?

汎化能力を向上するために必要な二つの要素

汎化には「既に持っている知識や経験との共通点や類似点を見つける」ことが必要です。

つまり、
持っている知識や経験の絶対量を増やすこと
“似ている”点をうまく見つけ出すこと
の二つが必要となることがわかります。

①持っている知識や経験の絶対量を増やす

Figure.4  持っている知識や経験の絶対量を増やす

前者は明白でしょう。何らかの「すでに知っていること」と似ていることが前提なのですから、そのベースとなる知識や経験自体が必要になります。何事も「基本が大事」と言われるのはそのためですね。基本がなっていなければ、当然応用は利きません。

まずはひたすら経験を積み、ノウハウを溜めることが必要でしょう。

②”似ている”点をうまく見つけ出す

Figure.5  “似ている”点をうまく見つけ出す

後者はなかなか難解です。何をもって “似ている” と判断するのか。その基準は人によって非常にまちまちで、画一的な解は無いように思われます。これを理解するには「パターン認識」と呼ばれる手法が参考になります。

パターン認識(パターンにんしき、Pattern recognition)は自然情報処理のひとつ。 画像・音声などの雑多な情報を含むデータの中から、一定の規則や意味を持つ対象を選別して取り出す処理である。
引用)パターン認識 – Wikipedia

例としてネコとチーターの分類について考えてみましょう。ここではパターン検出の評価軸として、「体長」と「体重」を選択します。そして、分類対象となるデータから「体長」「体重」をプロットし、「それらを見分ける境目」として決定境界を定義します。決定境界として引いた線から左の領域がネコ、右の領域がチーターと判定する、というわけですね。

Figure.6  決定境界と分類

ここではこの考え方を活用します。境界で分けられた領域の同じ領域に存在するネコ同士は似ている」「チーター同士は似ている、違う領域に存在するネコとチーターは似ていないと捉えることができるということです。つまり、パターン認識は、物事の分類を行うと同時に、類似性の評価も表裏一体として行っていると理解することができます。

Figure.7  分類と類似性

この “似ている”、”似ていない” を決めているのは、「体長」「体重」という二つの軸と、「決定境界」というたった一本の線だけです。つまり、類似性の評価には、「特徴の選び方」と「決定境界の引き方」がとても重要であるということが分かります。

面白いことに、実は「類似性」については、どのような物事を比較したとしても、完全に客観的な観点ではどれも同じ程度の類似性を持つ、ということが証明されています。これは「醜いアヒルの子定理」と呼ばれており、醜いアヒルの子と普通のアヒルの子の似ている度合いと、普通のアヒルの子同士の似ている度合いは同程度であるということを説明しています。え?そんなわけないって?いえいえ、どちらも生き物ですし、どちらもパソコンではないし、どちらも地球上に住んでいます。そんなむちゃくちゃな条件を選んだら当たり前?いいえ、この定理はそういった無数に考えられる全ての条件を同列に扱うのであれば、どれも同じ程度に似ているということになる、ということを示しています。

これだけだとあまり実際には役に立ちそうもない定理ですが、ここには重要な真理が隠れています。それは、「類似性とは、類似点を探す際にどのような特徴を選び、重視するかによって決定されるが、それは主観的なものである」ということです。

つまり、どのような条件を選び、どのような要素を重視するかが、その人の「類似性発見の上手さ」であり、汎化能力の腕の見せどころということになります。じゃあどういう基準で条件選びをすればいいのよ、ということについては、今後書く予定の「本質的思考能力」のお話で。

今回のまとめ

  • 汎化能力とは、既知の事柄との共通点を発見し、既存のノウハウを応用することで未知の状況にも対応できる能力のこと。
  • 汎化能力の向上には「持っている知識や経験の絶対量を増やすこと」と「”似ている”点をうまく見つけ出すこと」の二つが重要。
  • 類似性は主観的なもの。何をもって”似ている”と判定するかの、特徴の選択、評価軸の設定が腕の見せ所。

ではでは今回はこの辺で。

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