さて、前回の 漠然とした不安とその対処法、前進の話。では個人の前進について考察したので、今回は人類全体の前進について考えてみます。
思考実験的な内容ですが、ま、たまにはこんな妄想全開な回があっても良いでしょう。
(ブログのサブタイトルにも「たまに妄想的に考察します」とありますし。)
今回は、「人類の最も重要な機能」について考察します。
次世代に伝えるべき、人類の最も重要な情報は何か?
GIGAZINE にこんな記事があります。
ノーベル賞を持つ著名な物理学者であるリチャード・ファインマンは、「もし世界規模の大変動が起きて科学的知識の全てが破壊されたとき、もしあなたが次世代にたった一文だけを伝えることができたとしたら、少ない言葉であなたはどんな重要な情報を伝えますか?」と質問されたことがあります。
ファインマンは「全てのものが原子で構成されていると仮定する『原子論』を伝えます」と回答しましたが、BuzzFeedの記者が現代の科学者12人に同じ質問をぶつけてみると、さまざまな回答を得ることに成功しています。
引用)「世界崩壊で科学知識が崩壊、次世代にひとつだけ何か伝えられるなら?」と12人の科学者に質問した結果とは? – GIGAZINE
12人の科学者たちの答えをまとめると、こんな感じ。
- Ceri Brenner(物理学者) – 「エネルギー保存の法則」
- Buddhini Samarasinghe(分子生物学者) – 「DNA分子の二重らせん構造」
- Lewis Dartnell(宇宙生物学者) – 「水の簡単な消毒方法(SODIS)」※水を透明なペットボトルに満たし、日中に6時間太陽光を当てると、紫外線が細菌を消毒して水が飲めるようになる
- Susannah Fleming(医療機器開発者) – 「感染予防と制御の方法」※手洗いや水を飲むこと
- Duncan Casey(化学者/生物物理学者/開発者) – 「発電方法」
- Ying Lia Li(光学機器学の博士課程の学生) – 「ビーチに座って海流を眺めること」
- Liam Gaffney(原子核物理学者) – 「原子論」
- Alom Shaha(物理教師) – 「科学的手法の確立」
- Samuel Godfrey(生化学者) – 「好奇心の強い懐疑論者であり続けること」
- Dean Burnett(心理学者) – 「人間の脳は100%合理的ではない、という性質を知っていること」
- Sujata Kundu(材料化学者) – 「新しい情報ではなく少しの激励」
- Greig Cowan(粒子物理学者) – 「オイラーの等式(eiπ+1=0)」
しかしながら、ノーベル賞受賞者を含むそうそうたる科学者たちの答えを差し置いて、私はどれよりも相応しい答えがあると考えています。
それは「知識を蓄積し続けること」です。
「知識の蓄積」の重要性と効能
人類が何故ここまで繁栄できたのか、ということを考察してみましょう。
大して足も速くなく、力も強くなく、暑さ寒さに耐えられるわけでもなく、飢えや渇きに強いわけでもない、このちっぽけな弱い生物がどうして地球の覇者になったのか?それは、明らかに突出した知能のおかげでしょう。「他の生物と比べて、圧倒的に頭が良い」ということが、人間の最大の差別化要素だと考えられます。
蓄積により、個体の成長の限界を突破する
しかしながら、個人が独力で生み出せる知識には限界があります。どんなに天才だとしても、何も知らない赤ん坊として生まれ、それぞれが独自に努力を重ねるだけでは、現代の科学技術レベルに到達することはできないでしょう。現代の科学技術は発達しすぎていて、もはや一個人の寿命内では到達できないレベルに達しています。そこで、種全体として知識の蓄積をすることで、個人の独力の限界を超えることが出来るのです。
例えば、偉大な数学者でもあったニュートンですら、一生をかけても不完全な微分法(流率法)までしか構築できず、その欠陥を取り除くことはできませんでした。しかし、今や理系の高校生ならば完成された微分法を皆が知っています(不真面目な学生さんは、知らないかもしれませんが…)。これは、現代の高校生は皆ニュートンよりも賢いということを意味するのでしょうか?
いいえ、そんなはずはありませんよね。現代の高校生は、先人たちが発見し、整理し、洗練させ、蓄積してきた知識を、うまくまとめられた教科書や授業でショートカットして得られるおかげで、それをささっと “踏まえて”、より先に進むことができているのです。
蓄積により、発明コストが下がり、進歩が効率化される
「知識の蓄積」がされると、車輪の再発明を避けることができ、効率良く新技術の開発が行えるようにもなります。
「車輪の再発明」とは、「既に確立されている技術や解決法を知らずに、同様のものを再びゼロから作ること」を意味し、多くは “無駄な労力を費やす” というネガティブなニュアンスで用いられる言葉です。皆が毎回ゼロから、掛け算の筆算方法を編み出したり、リンゴが木から落ちたのを見て重力の存在に気付いたり、「もしかして、地球のまわりを太陽が回っているんじゃなくて、太陽のまわりを地球が回ってる…?」なんて発想したりしなければならないとしたら、文明はいつまでも発展することはなかったでしょう。
蓄積により、人類全体を前進させることが可能になる
前回の 漠然とした不安とその対処法、前進の話。では、『「前進」とは、成長すること。「成長」とは、出来なかったことが出来るようになること。』と書きましたが、これは人類全体でも同じです。人類が前進し、今まで人類が成しえなかったことが出来るようになるためには、知識の蓄積が必要不可欠です。
先人たちの知識の蓄積結果こそが「人類の叡智」であり、それを確固たる足場にすることで、はじめてその先の前人未踏の領域へ踏み込んでいくことが可能になります。
人類が知識を蓄積さえし続けていれば、アインシュタインが居なくても誰かが相対性理論を構築し、ジョブズが居なくても誰かがスマートフォンを開発し、ブレゲが居なくても誰かがトゥールビヨンを考案したでしょう。少しばかり、現実の歴史より遅くなるかもしれませんけどね。(天才とは、人類の進歩を早める存在と定義してもいいかもしれませんね)
知識の伝達・記録手段の変遷
さて、知識の伝達・記録手段を現代からどんどん遡って考えてみます。
- インターネット時代
- 全世界的な知識の共有・検索手段(論文データベース、SNS・ブログ、写真・動画共有)
- デジタル時代
- デジタルな伝達手段(電子メール、チャット、テレビ会議 など)
- デジタルデータ(テキストデータ、音声データ、動画データ など)
- デジタルな記録媒体(CD、DVD など)
- アナログ時代
- アナログな伝達手段(電話、ラジオ、アナログテレビ)
- アナログデータ・記録媒体(出版技術、蓄音機・レコード、ビデオテープ)
- アナログな共有手段(図書館、対面による授業・育成)
- 記録手段の獲得
- 紙
- ペン、インク
- 絵具、楽譜、粘土
- 表現手段の獲得
- 文字、数字(数式)、記号
- 言語
- 絵画、音楽、彫刻
- 原始的な意思疎通手段の獲得
- ジェスチャー
- アイコンタクト
- 声・音
- 生物としての情報記録・進化手段
- 遺伝情報(ゲノム)
- 記録媒体(DNA)
こう俯瞰してみると、人類は原始的な意思疎通から始まり、表現、記録の手段を得て、知識を蓄積し続けてきたことが分かります。そして、対面などの限られたチャネルでの伝達から、組織としての教育、世界レベルでの共有、という流れとなり、そのスピードは更に加速しています。
インターネットの次は何でしょうね、レイ・カーツワイル の言うように、脳連結コンピューターや精神のアップロード、人間のソフトウェア化でしょうか? 人工知能による知識の自動生成ももちろん有力な候補ですね。いずれにせよ、最先端の知識を、より迅速に、より高集積に蓄積していく流れは変わらないでしょう。表現、記録、蓄積、共有の流れの先に何があるのか、楽しみですね。
「人類の叡智の蓄積」に参加しよう
さて、「人類の最も重要な機能は知識の蓄積」ということを踏まえ、それに貢献するにはどうしたらよいのかを考えてみます。
あなたが、Google や Apple のような、最先端のテクノロジー企業に勤めているなら、普段の業務がそのまま人類の前進に繋がっているでしょう。
また、あなたが大学の教授や企業の研究者など、何らかの分野で先鋭的な研究を行っている場合も、同じように普段の仕事が人類の前進に繋がっていると思います。
でも、多くの人はそういった職業の方ではないと思います。そのほかの人たちは、人類の前進に貢献することは出来ないのでしょうか? 人類の前進は “すごい人たち” だけが行える、普通の人には縁遠い話なのでしょうか?
いいえ、それは違います。
どんな些細なことだったとしても、何か新しいアイディア、より良い考え、斬新な閃きが湧いてきたら、それを書き留め、公開してみるべきです。
インターネットの時代は、個人が手軽に、低コストで全世界に向けて情報発信ができる時代です。もしかすると、あなたがふと閃いた「コンパクトに畳める地図の折り方」が、「人工衛星のパネルの畳み方」に応用されるかもしれません。(これは事実とは順序が逆ですが、実例です。→ミウラ折り)
現在最も「人類の叡智」に近いものだと思われる、Wikipedia に寄付してみるのも良いでしょう。記事の編集にはちょっと畏れ多くて手が出せなくても、寄付なら誰にでも出来ます。
(注:ただし2018年現在日本では Wikipedia への寄付は寄付金控除の対象になりません。こういうの本当に残念ですね。)
実はこのブログも、自分のこれまで考えてきたことが誰かの閃きのきっかけになれば、少しでも人類の前進に貢献できれば、という思いで書いている面もあります。ほんの僅かな寄与しかないかもしれませんが、世界の一部、人類の一員として何かを遺すことには、幾許かの意味はあるんじゃないかな、と思っています。
最後は、オマハの賢人 ウォーレン・バフェットの言葉を借りて、この微々たる蓄積の締めにしたいと思います。(ダートマス大学の学生に向けた言葉より、筆者意訳)
「私たちが後世に遺せる最良のものは、”良い例” です。明らかに、君たちは模範となる良い例を遺すべきです。」 — ウォーレン・バフェット
“An example is the best thing you can leave behind. Obviously, you want to leave the right example.” — Warren Buffett
英文引用)Warren Buffett’s Best Advice…and Why He Doesn’t Own Gold
今回のまとめ
- 人類の最も重要な機能は「知識を蓄積すること」。その蓄積結果が「人類の叡智」。
- 知識の蓄積により、個体の限界を突破し、進歩を効率化し、種全体を前進させることが可能となる。
- 人類の叡智の蓄積に参加しよう。ふとした気付きでも構わない。誰かが拾ってくれて、すっごい発見のきっかけになるかも。
ではでは今回はこの辺で。
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